2010.03.15
契る人
社長さん、うちの息子は(結婚しないけど)大丈夫かね。どこかおかしいんじゃないかね。
お父さんがそんな心配をしていた宮澤工場長がついに結婚の時を迎えた。
平成3年に入社以来、工場ひとすじに勤めてきた男で、無口というよりは言葉を知らないのではないかと疑うくらいしゃべらないので、未だにどうやって新婦を口説いたのか謎である。
(ひょっとしたら口説かれたのかもしれないが。)
披露宴はわが社からも大勢呼んでいただき、
新郎新婦入場は観世流の謡い「高砂」を収運課の宮尾さんが見事にうなり、
余興ではみすず工業キタムラバンドで新郎自らドラムをたたき、
スタミナドリンクでは 水処理課の ヒロミ「中山」ゴー がエンターテイナーぶりを発揮して会場を巻き込むという、
芸達者ぶりを発揮した。
(実際にヒロミ・ゴーとキタムラバンドは社員の友人の結婚式に、純粋に余興に呼ばれて「出演」しているのだから、もはや素人の域を通り越している。)
宮澤工場長とはもう19年の付き合いになる。
入社したてのころは、後輩の入社式の歓迎の言葉を述べるときに、緊張のあまり手と足が同時に動いてしまうくらいだったのが、いつの間にか知らないうちに成長を遂げてきた。
工場長にするときも多少の不安はあったが、まずはやらせてみて彼がその大変さが分かればいいし、役につけば役なりの仕事ができるようになるものだ、という思いで工場を任せた。
その結果いまや、みすず工業にはなくてはならない存在になった。
あとは結婚を待つのみ、であったが如何せんしゃべらなくてはどうにもならないので、どうしたものかと気に懸けていたところだ。
そしていきなり昨年結婚を告げられ今日を迎えた。
彼もまた今日を境として新たな人生を歩むことになる。
披露宴で祝辞をしゃべりながら、いつしか私は親の目線で彼の事を見守っていたことに気がついた。